日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第4回を掲載しました


日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第4回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は4月28日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma中国EMSとの蜜月
投資、ビジョン共有で身内に

前回は、EMS過多の状態になって顧客の奪い合いが起きるようになり、中国のEMS事業者(香港、台湾、シンガポールなどアジア資本の中国工場を含む)の最小発注数量(MOQ)が下がってきた話をしました。これは2000年代後半から7~8年続いている傾向ですが、さらに2012年ごろからこの状況にさらなる変化が訪れました。
我々Cerevoのようなハードウェアをつくるスタートアップ企業に、これら中国EMS事業者から熱い視線が注がれるようになったのです。超大手EMSが手がけていたスタートアップ企業の製品が既存大手家電メーカーのシェアを切り崩し、生産量業界第1位となるような事態が起こりはじめたのです。
14年にNASDAQに上場したGoProはソニーやキヤノンを抜いて世界生産数1位となるビデオカメラを作り、15年に上場したFitbitは同じく世界生産数第1位となる歩数計を作りました。Blackmagic Designはプロ用映像機器の分野で、94fiftyはバスケットボール(競技ではなくボールそのものです!)の分野で大きな成長を遂げました。ビデオカメラをや歩数計といったマスだけでなく、ニッチなマーケットでもスタートアップが大手を打ち負かしてゆく事例がここ4~5年で続きました。

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 結果、大手EMSはその資金力をバックに、将来伸びるであろうスタートアップ企業への投資をしていこうと考え始めたのです。出資を行うだけでなく、自社(出資をしたEMSを指す)の工場で生産もサポートします。
目利きが重要ではありますが「これは行けるぞ」と思ったスタートアップ企業の株を持つことで、当該スタートアップ企業を製造面でサポートして成長させられるだけでなく、大きく成長させることができればキャピタルゲインが得られます。さらには自社の優良顧客として多額の製造費を落としてくれるようになるかもしれない。EMSにとってハードウェア系スタートアップ企業への投資は二重のうま味があるわけです。
世界トップクラスのEMSであるシンガポール拠点のEMS、Flextronicsはシリコンバレーに専門の投資部隊Lab IX(ラボ・ナイン)と、投資先の製品を製造する小規模製造に特化した工場を設けて積極的にスタートアップ企業発掘を行っています。鴻海(ホンハイ)精密工業は先だってベンチャーキャピタルファンド「2020」の存在を明らかにし、日本企業FOVEへの投資を行ったと発表しました。
ファンドを組成して投資をするほどの大手EMSでなくとも、「将来成長するであろうスタートアップ企業であれば、多少手間がかかる案件であっても受けてやろう』と思ってくださる工場がたくさんでてきたました。Cerevoが懇意にしていただいている中国EMSのほとんどとはそんな関係です。

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外国人というとどうしてもドライな関係、ビジネスライクな関係をイメージされる方が多いのですが、実際に何度も工場を訪れ、幾晩も酒を酌み交わして想いを語り、将来のビジョンを描いて話しあえば「身内」になってくれる。私はいつも「昭和の熱血サラリーマンみたいだ」と冗談めかして言っていますが、2016年の日本人のほうがドライな関係が好きなように感じます。そんな意欲あるEMSによって、世界のハードウェアスタートアップ企業は支えられているのです。

出典: 日経産業新聞 2016年3月31日掲載